兆し
ずっとずっと家族というものが煩わしかった。苦しかった。逃れたかった。
でも、逃れて会わなかった期間は、嫌な思い出から作り出された虚像が私を苦しめていた。私の中の家族は昔のままだったから。
久しぶりに兄や母に会って、今まで許せなかった全てが少しだけ成仏された気がした。
兄は会ってすぐ「久しぶり」と声をかけてくれた。私に誕生日プレゼントをくれた。夜ご飯をご馳走してくれた。
母は、心配そうな目で皮膚を撫でてくれた。手作りの肉じゃがとひじきを帰りに渡してくれた。
それだけのことだけど、私の胸を温かくするにはそれで十分すぎるほどだった。
これからも全部は許せないかもしれない。でも少しずつ許して、少しずつ昔の記憶を忘れていけたら、それでいいと思う。
まだ、鬱の薬も睡眠薬も手放せない。飲まなくなったらを考えると少し怖い。だけど、少しだけ光が差した気がしている。これは大きな変化だ。